「新潟美食手帖」に関連する記事が新潟日報に載りました。キャッチは「新潟の〝美食〟京都を超せる」。ずいぶん大胆な見出しではありますが、すでにブランド総合研究所が発表した2018年版の「食事が美味しい都道府県ランキング」では、京都を抜いて全国4位に(前年の9位から大幅ランクアップ!)。「地元産の食材が豊富ランキングでは全国2位という結果になっているのです。
飲食店のレベルはまだ京都のほうが上ですが、新潟の飲食店がここ数年、大幅にレベルを上げているのもまた事実。真面目な県民性でぐんぐん力を上げているのです。
少々長いですが、「新潟美食手帖」の巻頭に掲載されている「はじめに」を転載するので、ぜひご覧ください。
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はじめに。
全国各地で食による地域活性化が行われています。以前はB級グルメ全盛でしたが、今は「ガストロノミー」がキーワード。フランス語が語源で「美食学」と訳されます。20世紀までは〝フォアグラ・キャビア〟のような右脳を刺激する食が〝美食〟と捉えられていましたが、21世紀に入ると最新調理技術に注目が集まり、さらに世界がボーダレス化した現在では、また違う価値観が〝美食〟と捉えられています。食の持つ民族的背景や地理的背景を、現代の料理技術で表現した料理が高い評価を得るようになったのです。
そんななか、日本で注目されているのがフランスのブルゴーニュやイタリアのトスカーニャ、そしてスペインのバスク地方。とくにサン・セバスチャンとビルバオは、街づくり関係者の視察が引きも切らない状態です。
世界中から食を目当てに観光客が集まり、同時に一次産業、二次産業まで活性化しているという事実。昨今、日本各地でサン・セバスチャンにあやかろうと、高級レストランを作る計画や、現地からシェフを招聘する計画が多数進行しています。しかしそれは本質ではありません。
サン・セバスチャンを美食の街に押し上げた原動力、そして本質は〝食による民族運動〟。バスクを表現する斬新な料理が世界の人々から支持されたからこそ〝世界一の星を持つレストランが集まる街〟になったのです。
さて私たちの足元を見渡してみれば、新潟県内には〝新潟を表現する〟素晴らしい食文化や食材が眠っています。
米はもちろん、伝統野菜、発酵食、保存食、日本海の魚、そして日本酒……。新潟県民には〝当たり前〟の食が、実は日本では貴重な食文化になりつつあります。
例えば春、私の住む魚沼地域では、あちこちの家でゼンマイを干す姿が見られます。秋になれば大根を干す家も珍しくありません。自宅では裏庭で採れたナスを肴に日本酒で一献。朝食は魚沼産コシヒカリと、煮干しでとっただしに自家製味噌を溶いた味噌汁。宴会では徳利がどんどん横になっていきます。
日本の食文化が、当たり前の風景として新潟には残っているのです。
その理由が「北前船」と「雪」。
明治中期まで、北前船は日本の物流を支える大動脈でした。と同時に、北前船最大の寄港地である新潟には、質の高い文化が育まれていたのです。さらに新潟市街だけでなく、日本一の大河、信濃川流域や阿賀野川流域まで含めて、新潟のほとんどが〝豊かな街〟でした。
しかしその後、物流網が鉄道や車に変わって太平洋側に移ると、新潟は高い山々と雪で隔絶され、厳しい時代を迎えることになります。一方で、新潟には、本来の日本文化が、まるでタイムカプセルのごとく封印されていたのです。
そして今、そのタイムカプセルに気づいた新潟のシェフたちが、眠っていた新潟の宝を掘り起こそうとしています。
例えば「なす」。新潟ではなすの作付面積が日本一なのに、県外に出荷しているのはわずか34%。66%が県内消費です。
例えば「ヒラメ」。水揚げ後の締め方が悪く、品質が今ひとつだったヒラメを、料理人が漁師とコミュニケーションを取ることで、最高の品質に変えました。
皆さんもお気づきかもしれませんが、ここ5〜6年、新潟の食材を積極的に使うレストランが増えてきました。今までフレンチでは「フォアグラ、キャビアをメニューに入れないとお客様が来ない」が定説でしたが、それらを入れない店が増えています。寿司屋では「県外で水揚げされたマグロや明石の鯛を使う必要はない」と言う店が出てきました。新潟の食材を活かしてこそ料理人。そんな考え方のシェフが増えているのです。
私の提唱する「ローカル ガストロノミー」とは、〝地域の風土、文化、歴史を料理に表現しよう〟という活動です。それはすなわち、〝新潟の食を新潟県民が大切にする〟こと。必然的に県内の農林水産業を守り、加工業を活性化させ、県経済を循環させることにつながります。さらにフードマイレージを低減させることによってCO2削減にもなるのです。
残念ながら、今まで〝新潟食材を使った美味しい店〟はなかなか育ちませんでした。なぜなら新潟県民にとっては「いつも食べている食材には興味がない」から。自分の家で、美味しい日本酒と地元の野菜で晩酌する、それは最高の贅沢です。
でもたまには外食もするでしょう。そんな時の店選びに、この本を参考にしていただければ幸いです。家で毎日食べている「なす」がきっと違う味に感じるはず。そこには新しい新潟との出会いと発見があるはずです。
掲載した飲食店は新潟の食に対して本気。妥協せず、そして言い訳をせずに、新潟の食を発信することに取り組んでいます。
今、新潟には、そんな料理人が次々に現れています。世界の料理界もまた、その方向に進路を変えつつある今、新潟のシェフと生産者、そして〝食べ手〟が一体となって取り組めば、「日本に新潟あり!」と世界に発信することは容易なことです。そして新潟が京都と並び〝日本一の美食の街〟になることも、けっして夢物語ではありません。
必要なのは3つだけ。〝食べ手〟である皆さんが店を支えること。そして県内の人々に伝えること。さらに県外に自慢すること。たったそれだけで、サン・セバスチャンをも超せるかもしれません。この本がその小さな一歩になれば、著者としてこの上ない幸せです。
岩佐十良
「9月18日、新潟日報掲載」
*掲載されている情報は、投稿時の情報です