里山十帖はオープン2周年を迎えました

「新潟、とくに南魚沼ではあり得ない客単価と稼働率の事業計画書。改装費用がかかりすぎで半年以内に破綻する」と、銀行からは工事途中で融資引き上げと会社整理を宣言。その後の資金調達は困難を極めました。
なんとかオープンにこぎつけられたのは、地元施工業者の協力があったからこそ。そして新潟・南魚沼の潜在的魅力を信じて前に進んだからです。

今でこそ「地方創生」が叫ばれていますが、この建物と出会ったのは、まだ東日本大震災から1年、世の中がどん底を彷徨っていた頃。銀行が「必ず破綻する」と断言したのも当然かもしれません。
当時は、地方創生の「ち」の字もありませんでしたから、「これからの地方は観光業が重要。観光が農業を、そして地域を牽引する」という私の主張は、認めてはもらえるものの「そうかもしれないが、資金的な応援はできない」と空回りしていたのです。

オープンから2年。「半年以内に破綻する」という銀行の予測は、皆さまのおかげでみごとにはずれました。
平均客単価は事業計画書通りになりましたし、稼働率はそれを上回りました。それでも12室という客室数では、里山十帖の経営は水平線ギリギリです。

総じて低い宿泊産業の待遇条件を変えていくには、やらなければいけないことはたくさんあります（それでも里山十帖は一般的な旅館業と比べると、はるかに勤務条件はいいと思いますが）。値上げをしないでオペレーションの平均コストを下げるためには新館の建築も視野に入れなければいけません。でも、それはさらに借金を増やすことにほかなりません。
宿泊施設の設備投資は償却期間が長いため、長期にわたって返済していかないといけません。今は良くても、10年、15年後にもお客様に支えていただく必要があるのです。

里山十帖にはいま、多くの自治体や旅館経営者が視察に訪れています。なぜかといえば、里山十帖に、旅館業の将来や地域活性化への一筋の光を見ていただけたからだと思っています。

「地方創生」が叫ばれる一方で、地方の宿泊施設経営は、極めて難しい時代を迎えています。

客単価の下落と稼働率の低下、さらに人件費の上昇。低コストオペレーションを目指したくても従来の慣習から簡単にはいかず、しかも客室に対して過大な設備（宴会場やロビーなど）が経営を圧迫しています。

従来「安くて良心的」と言われてきた旅館は、そのほとんどが家族経営によるもので、家族の長時間労働によって支えられてきました。中堅規模の旅館やホテルも従業員の献身的な労働によって支えられてきたのです。
そしていま、その環境が崩れつつあります。「安くて良心的」な宿は、ご主人の“自分の目が黒いうちは”続きますが、持続不可能な状況にあります。そしてそれは、地域の衰退を意味するのです。

唯一の灯りは「インバウンド」ですが、インバウンドで潤っているのは、実はほんのわずかな地域に限られています。
データを見ると一目瞭然なのが、今後、ますます二極化が進むこと。東京や京都、大阪、札幌などの都市、高山や箱根などがさらに強くなる一方で、インバウンドへのスタートが遅れた地域はますます弱くなる可能性が否定できません。つまり、というか、もしかすると、インバウンドは東京や京都、大阪など大都市に経済効果があるだけで、地方にはその効果がほどんとかもしれないのです。

里山十帖は「旅館再生」ではありません。目指したのは「地域活性化のロールモデル」。それは12年前に本拠地を東京から新潟に移した、私たちのひとつの集大成でもあります。

オープンからわずか2年。まだまだ成功モデルというにはほど遠い状態です。
とはいえ「今やらなければ！」ということはたくさんあります。
里山十帖が見つけた、地方の、そして地域活性化の突破口を、これからは全国に伝えていきたいと思っています。
そして新潟・魚沼という地域が100年後も元気でいるために！

まだまだ先は長いのですが（人生は残り少ないのですが）
これからも頑張っていきたいと思います。
本当に2年間、支えていただいた皆さまには感謝しています。
これからも応援いただければ幸いです。
ありがとうございます！

ちなみに写真は2周年のポーズです。

株式会社自遊人　代表取締役
里山十帖　クリエイティブディレクター
岩佐十良