さとやまからはじまる十の物語5.「環境」
ストイックすぎずに。
快適性と環境共生のバランス。
環境と共生する。言葉にするのは簡単ですが、文明社会に生きる現代人にとって、それを実践するのは大変難しいことです。突き詰めれば、山に篭もっても「共生している」とは言いきれません。どこまでが人間のエゴなのか。どこでバランスをとるのか。これは人生の永遠のテーマといっても過言ではないでしょう。
それは事業となるとより一層、難しいテーマです。そして討論を始めればきりがありません。
では私たちにとっての「環境共生」とはなんなのでしょう。答えは「バランス」としか表現できません。
たとえば里山十帖の食事は野菜中心です。肉や魚はちょっとだけ。昔の日本人の食生活を意識したバランスでもありますが、それは同時に環境に配慮した料理でもあります。
たとえばアメニティ。環境共生を考えれば「すべてご持参ください」になりますが、それでは質素すぎます。カミソリなど難リサイクル品はそれほどいいものは置いていませんが、必要なものはすべて揃っています。シャンプーやボディーソープ、化粧水などは人間の体にも、環境にも配慮した、無添加のものをご用意しています。タオルはバスタオル、フェイスタオルともにオーガニックコットン。フェイスタオルは気に入っていただいたらお持ち帰りいただいています。
他の温泉旅館と異なるのはタオルが使い放題ではないこと。そのかわり全室にタオルウォーマーを備えています。「オーガニックコットンでなくていいから、タオルは使い放題にしてほしい」というご意見もありますが、ここは日本一のお米の産地、魚沼。水が命ですから洗濯回数はできるだけ減らしたいのが本音。それだけはご勘弁いただいています
そして建物。古いものを残して使うことは大切ですが、現代の快適さを犠牲にする暮らしはストイックすぎます。「リノベーションだから寒い」ではゆったり過ごすことができません。だからリノベーションする際の最重要テーマはエネルギー効率。表面の造形だけでなく根本からデザインしています。
あるいは、家具。デンマークの家具が多いのにはわけがあります。家具とは不思議なもので、同じようなものがディスカウントストアで2980円で売られていたかと思えば、一方で10万円だったりします。でも世界中に流通している安価な家具のうち、違法伐採された木が使われた家具がどれだけ多いか、考えたことがあるでしょうか。
残念ながら日本の森林は計画的に植林・伐採するという循環から完全にはずれてしまいました。でもデンマークをはじめとした北欧諸国では、それが当然のように行われています。工業製品としての完成度はもちろんですが、環境面への配慮も大事。それが北欧家具が多い理由です。
さらに寝具。ディスカウントストアで販売されている安い羽毛布団が、どうやって生産されているか、考えたことがあるでしょうか。動物愛護を訴えるつもりはありませんが、安いものには裏があるものです。
そして、そして、そして……。語り始めればキリがありません。そしてそろそろ「もうウンザリ」という方もいらっしゃるに違いありません。
あくまで私たちのテーマです。このページを読まなければ知らないで過ごすことばかりです。それでいいと思っています。
ストイックすぎると肩が凝ります。
私たちにとっての環境共生は、「ストイックすぎずに、快適性と環境共生のバランスを考えること」。このバランス感覚も重要なデザインだと思うのです。
クリエイティブディレクター 岩佐十良