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さとやまからはじまる十の物語3.「衣」

伝統織物 × デザインで、
新しい価値を生み出す。

新潟は織物が盛んな地域です。2013年「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されて話題になりましたが、それより以前の2009年に「小千谷縮・越後上布」はユネスコの無形文化遺産に登録されています。

登録された理由はその歴史と技術。苧麻(ちょま・からむし)の茎を細く裂いて糸にするのですが、薄くて上質な布を織り上げるには、その製糸技術が重要。新潟、とくに魚沼から頸城の山間地では千数百年前から麻織物が盛んで、越後の麻布は奈良の正倉院に保存されているほどです。

里山十帖があるのは、その「越後上布」が織られる南魚沼市旧塩沢町。無形文化遺産に登録されたことはあまりに知られていないため、ちょっと行政の宣伝不足では、と思うこともあるのですが、それはさておき、新潟の布が歴史から見て優れていることは間違いありません。

越後の布は麻だけではありません。麻と同じ地域では絹織物が発展し、見附、亀田、加茂、長岡などの平野部では綿織物が盛んでした。
江戸時代まで、日本海には北前船航路という、現代の東名高速のような物流ラインがあったわけですが、魚沼の中心を流れるのは日本一の大河、信濃川。高級品の麻や絹織物は小舟にのって川を下り、全国へ流通したのです(または陸路で江戸へ)。

一方の綿織物は「自家用」需要が中心。なかでも1700年代初頭から織られる「亀田縞」は、農民が自家製綿糸で木綿布を織って農作業着に使ったのが起源といわれています。縞模様は馴染みのある「もんぺ」柄。丈夫で長持ちなのがなによりも特徴です。
とはいえ、歴史のある越後の布も風前の灯火。無形文化遺産登録された「越後上布」でさえ後継者はほとんどいません。国際的な価格競争にさらされた綿織物となればなおさらです。

里山十帖ではそんな越後の布に新たな価値を生み出すべく、現在、武蔵野美術大学テキスタイル研究室と共同でプロジェクトを進行中。庶民的な亀田縞をオーガニックコットンで織り、新たにデザインした現代的な縞模様を取り入れるなど、サンプルの製造が進んでいます。そして、さまざまな商品のデザインも同時進行中です。
もちろん商品化されたら里山十帖で体験可能。手頃な綿織物から始めていますが、将来的には越後上布まで手がけていきたいと考えています。

もうひとつ重要なこと。この手の事業は「補助金・助成金ありき」「スポンサーありき」でスタートするのが一般的ですが、これらは100%、里山十帖の自己資金でまかなわれているのも大きな特徴です。
よく「採算性は?」と聞かれますが、正直、そんなことは考えないでスタートしています。「なんの目的で?」ともよく尋ねられますが、答えがあるとしたら「体感するメディアだから」としか答えようがありません。もちろん将来的にスポンサーは必要ですが、それは形がある程度見えてからでいいと思うのです。

私たちはこれまで、補助金・助成金を得るために最初の企画が大きく変わってしまったり、かえって採算性に疎くなって事業が頓挫したり、という例をたくさん見てきました。
雑誌自遊人の創刊、里山十帖の開業。私たちの会社を以前からご存じの方はおわかりかもしれませんが、私たちの企業ポリシーは「悩む前に行動する」「まず手を動かす」。
出版、食品、宿泊施設と多くの事業を営んでいますが、それらに共通しているのは「メディア」ということ。新たな価値を世の中に提案することを目的とした会社です。

私たちは「体感するメディア」を通じて、新しい魅力を提案、発信していきたいと考えています。

クリエイティブディレクター 岩佐十良

さとやまからはじまる十の物語

4.「農」 2.「住」

Satoyama journal

春夏秋冬。季節の物語をお届けします。
里山十帖の日々をほぼ毎日、更新。ぜひご覧ください。